経理業務の効率化事例:社内に小口金庫を増やさないようにするには?

経理ひとすじ50代男masaです。経理実務から切り離せない現金の管理について考えてみます。

小口現金制度とは?

企業の経理実務では、少額の支出を迅速に行えるように、小口現金を各部署に設けることが多いです。各部署や支店などに1個ずつ設置し、上限金額を設定し、一か月に使った金額だけ翌月初に補充する方式(「定額前渡金制度」)が一般だと思われます。

小規模であれば、経理ですべて出納業務を行えばよいです。支店など事業所が物理的に離れてしまう場合(ケース1)。

同じ本社内でも、会社の規模が大きくなってくると、人事、総務など各部署で取引が頻繁に行われ、経理にいちいち出納依頼していては迅速にさばけない状況(ケース2)。

ここでは(ケース2)を想定します。

ケーススタディ

人事部で、採用、研修、労務セクションのうち採用と労務で現金出納が発生するケースを考えます。

採用担当A子さんは、社内にいるときは採用面接時のお茶菓子代、DM発送代金、地方の大学などに主張するときの旅費仮払に小口金を使います。

労務担当B子さんは、社員の慶弔金の支出に小口金を使用します。社員によっては給与口座振り込む希望がありますが、現金手渡しによらざるを得ない場合に備えておきたい状況にあります。

1個の金庫で、採用・労務両部門で共用しています。採用A子さんが出納管理を行っていましたが、がさつな性格で、しかも、出張もするため、出張前日の採用面接お茶菓子代のために千円札を金庫から出し、おつりと領収書を金庫に戻さないまま出張にでかけ、戻ってきて忘れている、といったことで現物残高と出納帳残高が不一致になるケースが過去に何度かありました。

B子さんは、内勤で、几帳面な性格。比較的多額の現金を任せていても安心できると上長は判断しています。しかし、B子さんの守備範囲は慶弔金だけで、A子さんの採用業務については無干渉。A子さんのお金の出し入れや、出納帳をとりまとめて経理に提出することにもB子さんはかかわっていません。

 

A子さんが出張中に経理部の実査が行われました。

代行でB子さんが現金を数え、出納帳と金庫を経理部に提出したところ、両者の残高に不一致が発見されました。

原因究明を経理部から指示されたB子さんですが、彼女は自分は正しく行っている確信があるため、おそらく、A子さんのミスがあるに違いないと推測しました。

出張から帰社したA子さんは、あっさりとミスを認めました。やはり、仮払いの残金と領収書を手もとに持ったまま出張に出たとのこと。

誠実なB子さんは、あっけらかんとミスを認めたA子さんに腹が立ち、経理部に、「金庫を採用と労務に分割してほしい」と直訴しました。

さて、経理部は、人事部B子さんの依頼を承認すべきでしょうか?

 

現金の置き場所をむやみに社内に増やさないために

 

結論は、「金庫分割を承認しない」です。

 

直観的に思いつくこととしては、

がさつなA子さんに現金を触らせない

安全策の第1歩なのは確かですね。

A子さんには自分で立替させ、月1回経理部にて精算する

こうすれば、領収書を紛失したり忘れたりするとA子さん自身の資金回収ができなくなりますので、A子さんも必死に領収書の整理をせざるを得ないでしょう。

そういう厳しい対処もあり得ます。

ただし、企業の規模によっては人のやりくりが難しく、特定個人に業務が帰属してしまう状態を回避しえない状況もあり得ます。

B子さんの依頼を承認したときのデメリットは、確実にあります。

1.人事部への定額前渡金が増えてしまう可能性がある

2.A子さんの管理する側の金庫のリスクが解消されない

3.経理部の手間が増える

リスクが解消せず、効率が確実に落ちる 

救われるのはB子さん個人の感情だけです。

ここでは、人事部の出納にかかわるのがA子さん、B子さんの2人だけという前提を変えずに、

金庫を増やさない」かつ、「記帳と現物の不一致をなくす」、

かつ、「A子さんのミスなのにB子さんが疑われなくてすむ

これを満たす最善の処置がとれないものかを考えてみます。

A子さんがミスを犯しやすい状況を分析します。

ひとつは、お茶菓子やDM代を金庫から引き出して、おつりと領収書を金庫に戻し忘れるケース。

二つ目は、主張旅費を仮払いしたが、領収書金額と仮払金余りの返却額の合計額が、仮払金額と不一致となるケース。

B子さんは、自己の担当である慶弔金支出時にしか金庫を開けないし、出納帳の記帳も自己の業務分しか行わないし、実査もA子さんの業務。

このままでは、B子さんが現金の実在性を保証できないし、記帳も両名で分担しているため、A子の不備を補完できない。

そこで、方策としては、

1.A子さん内勤時の支出は本人に立替させ、当日夕方にB子に領収書を渡し、精算を申し出る。仮払金の希望申請をB子さんに提出し、B子さんは現金をA子さんに渡し、受領サインをA子さんからもらう。

2.B子さんは、領収書の額面と同額の現金をA子さんに渡し、同時に出納帳に記帳して、受領サインをA子さんからもらう。A子さんの出張帰社時に、出張費利用明細を提出してもらい、旅費合計と領収書を照合し、利用総額を検算し、仮払との差額を精算する。仮払申請と利用明細に双方でサインし、結着したことを明記する。

3.B子さんは、当日の現金残高を数え、出納帳残高との一致を確かめて金庫をしまう。(A子さんが支出しない場合でもB子さんが行う)

常時内勤、かつ、几帳面なB子さんが現金管理を全面的に担う体制に変更するだけで、

・小口金庫を増やさなくてすむ

・記帳と現物との不一致リスクが現状から改善される

・B子さんの不満も解消する

 

リスクをなくすことはできない

 

人を見て体制を変えるということに疑念を抱く方々も多いと思います。

仕組みでリスクを最小化できるのが理想です。内部統制の基本的な発想です。

記帳者と現物を触る者とを分離する

と教科書には書かれています。

現実は、数万円から大きくても数十万円程度の小口金管理に2名の人材を配置するのは困難なことが多いはずです。出納と他業務をかけもちするケースが大多数と思われます。ケアレスミスが起きやすい状況はB子さんにも存在しています。

今回のケーススタディでは、直接の上下関係のない2名の社員を想定し、主担当業務と性格とを比較してリスクが確実に減少する方策を考えてみました。

最後に、

女性2名とし、片方をがさつなタイプに設定しました。

あえてそうしたのは、

女性はすべからく几帳面で、現金の不一致など絶対に起こさない

という先入観は捨てるべきだからです。

現金出納業務は、どこの会社でも圧倒的に女子比率が高いと思われます(統計データは存じません)。

一般的には、女性の方が男性に比べ誠実かつ几帳面という側面は否定しません。

だからといって、女性だけでリスクを完全に排除しきれないし、女性でもケアレスミスが多い人はいます。さらに業務状況から、今回のA子さんのように、ミスが起きやすい業務形態の場合も十分に想定できます。

現状のリソースで、どんな管理水準を目指すのか?

を管理者は十分に考えるべきです。

「おれは管理者だから現金になぞ触らない」

とふんぞり返っている暇があったら、今回のケースでのB子さんの実査に立ち会うとか、

支出内容をレヴューするとか、

何かやるべきことが見えてくるはずです。

ABOUTこの記事をかいた人

1965年生まれ 会計士試験に5回挑戦後、会計事務所に就職、現在は一般企業の経理職を20年と経理一筋に生きてきた、さすらいの会計人(びと)。 会計で社会の未来を変えることを信じている。 内向的な性格を損だと思って生きてきたが、今では独自の世界観を築くことができた(と自分では思っている)のはひたすら自己に向き合ってきたからだと確信している。 音楽は高校時代から聞き始めたモダンジャズ一筋、手塚治虫の漫画やスティーブ・マクイーン、最近はダニエル・クレイグに憧れている。